研究から実戦へ、n-Cubeサービスの開発
未来永劫続くと思われるほど成功を収めている技術・サービスを、突如として後発の新技術が取って代わる――これは「破壊的イノベーション」として知られている現象です。
NRI情報技術本部では、この破壊的イノベーションを自ら起こし、既存技術にしがみつくことなく、常にお客様の心をつかむことを目指して、研究開発(R&D)を行っています。今回ご紹介する、NRIの金融ITサービス「n-Cube」(※1)も、そのようなR&Dの応用として開発されました。
●従来型COBOLバッチ集計モデルを置換するn-Cubeサービス
n-Cubeサービスは、資産運用業務における銘柄分析情報を提供するサービスです。さまざまな情報提供元からの金融情報を、集約・加工して利用者に提供します。
本サービスの開発にあたっては、OLAP(On-line Analytical Processing)と呼ばれる集計技術を活用し、少人数による短期間開発を実現しました。従来、集計を行うシステムはCOBOLに代表される手続き型言語を用い、大量の人手を使って長期間の開発期間をかけて実装していたため、多大な開発コストがかかっていました。本サービスでは、手続き型言語ではなく、ER図に模した設計情報を使用しています。集計を行うコア機能は全てミドルウェアにまかせ、開発者は業務モデルの実装のみに注力することで、高い生産性を実現しています。
OLAPは古くからある技術ですが、使用にあたっては多大な演算量が必要とされるため、大規模なエンタープライズ用途への導入はごく一部に限られてきました。この状況を変えたのが、昨今のCPU演算能力の進歩です。CPUが64bit化されたことで演算能力が飛躍的に向上し、従来では不可能であった大規模モデルでのOLAPの活用が可能になりました。n-Cubeサービスでは最新OLAP技術を活用するため64bit化に完全対応したMicrosoft SQLServer 2005 Analysis Services を採用しています。
本サービスのターゲットである資産運用業務における銘柄分析業務では、過去の膨大なデータに対し集計・加工を行います。これらの業務に対し、n-Cube サービスでは、上記システム構成をとることで、従来サービスで提供されていた決められた切り口での情報取得(定型分析)のほか、従来では演算能力面から実現の難しかったさまざまな切り口での分析(アドホック分析)を可能とし、利用者に自由度の高い分析サービスを提供します。これを利用者が使い慣れた Microsoft Office Excelから使用可能であることも、n-Cubeサービスの強みのひとつです。
●新技術を徹底検証
n-Cubeサービスの原型である金融情報分析を行うOLAPモデルの作成は、「OLAPにより革新的な金融情報分析サービスを提供できる」との仮説から始まりました。この仮説を事業にするためには課題があり、この解決がR&Dのミッションでした。
まず検証が必要とされたのが機能です。OLAPモデルは従来の手続き型言語モデルとは実装方法が大きく異なるため前例がなく、実証のためのプロトタイプ作成は手探りで進みました。製品知識を身につけようとセミナー通いで講師を質問責めにしたのをはじめ、洋書の分厚い解説書を取り寄せて読み込み、それでも不足する情報についてはWebでの事例調査をすることで、製品知識を集め続けました。加えてマイクロソフト社のSEのかたの支援も受け、試行錯誤の末、プロトタイプモデルは完成しました。
プロトタイプによる実証で、OLAPモデルは想定どおり競争力のある機能を持つことを確認しました。
性能については、Microsoft SQL Server 2005 Analysis Servicesを用いた集計モデルの検証を実施しました。HP Integrity Superdome(Itanium2プロセッサ64台,メモリ128GB搭載)という米国Microsoft社でも例のない世界最大の計算機環境を使用しました。評価モデルは、弊社が実際に提供している金融情報サービスを対象とすることで、実際にお客様が使用されるであろう実践的な実装モデルとしています。
この検証により、評価モデルは、プロセッサスケーラビリティがある(※2)こと、大量のデータ処理を要する大規模モデルにおいても十分処理時間が短く実用に耐えうることが分かりました。
●研究成果を事業化 n-Cubeサービスの開発
企業活動としてのR&Dは、単に技術者の知的好奇心を満たすための活動で終わらせず、実際に使用されて役に立ち利潤を生み出すサービスとなるべきです。このR&Dでは調査・検証と並行して、社外のお客様や社内のさまざまな事業部門に足を運び、プレゼンテーションによる提案活動を実施し、事業化へのニーズを探し続けました。
提案活動の甲斐あってか、R&Dの終了後に引き続いて事業化が決定しました。事業化にあたっては、お客様の金融分析業務を良く知るNRIのフロントSEのかた、運用担当のベテラン社員、そしてモデル設計担当の私で、サービスの作成を行いました。こうしてNRIの強みである高い金融業務要件への理解と、R&Dを通じて得られた設計ノウハウをあわせて作成されたのが、n-Cubeサービスです。n-Cubeサービスは順調に開発が完了し、当初予定通り2007年5月にサービス提供を開始しました。現在も問題なく稼動しており、お客様の声を反映してさらなる改良を実施することが検討されています。
※1n-Cubeは開発コードであり、正式名称ではありません。
※2搭載CPU数の増加に伴って、比例的に処理能力が向上すること。プロセッサスケーラビリティがあると、処理能力増強が容易になる上、必要処理能力に要する機器投資額の見積もりが容易になるという利点があります。本検証ではPCサーバ相当からミドル・ハイエンドサーバ相当までの幅広い範囲で、処理性能の違いにおける処理時間を評価しました。
【2008年 1月15日掲載】



